小学4年生の時に1人でバスに乗り始めた話

今から10年以上前、小学4年生だった僕は親の教育方針により塾に通うことになった。塾はもちろん学習塾のことではあったものの、難関中学合格を目指すような大手の塾ではなく、小さな町の塾のようなところだった。また、僕自身当時は勉強をそこまで苦にしていなかったこともあり、塾に通うこと自体には何ら抵抗はなかった。

 

しかし、1つ問題があった。それは、その塾がバスで30分ほどかかる所にある、ということ。同じくらいの歳の子がどうなのかは分からないが、当時の僕は1人でバスに乗ったことなどなかったし、30分というのは結構な距離だった。もちろん親がついて来れないことはなかったものの、家の用事なども考えると毎回というのは大変だった。そこで、無駄に気をつかう性格であった僕は、塾に1人で行くことに決めた。

 

それでも、最初の数回は親と一緒にバスに乗って塾まで行った。僕と同じように親に送ってもらっている子もいれば、すでに1人で来ているような子もいた。このこと自体には何とも思わなかった。しかし、冒険と言うと言い過ぎかもしれないけれど、1人で大人の世界に飛び込んで行くような体験がしてみたい、とは思っていた。

 

 

そして数日後、ついに自分1人で塾に行く日がやって来た。行ってきます!と元気よく言って家を出て、最寄りのバス停まで向かった。バス停までの道のりは小学校の通学路でもあったのでよく知った道だったはずなのに、その時は妙に新鮮に感じた。

 

バス停に着いて、塾のテキストの入ったカバンを背負いながら待つ僕。同じバス停から乗る人がおらず、少し寂しくなっていたところにバスはやってきた。いつもは誰かと一緒に乗るから気にしてなかったけれど、とても大きくて圧迫感がある。そう思っているうちにバスは止まり、目の前の扉が開いた。

 

中に入ると何人かすでに乗っていたものの、席はわりと空いていた。いつもなら親と2人がけの席に座るけれど、今日は自分1人。1人ではそこに座る気にはなれず、バスの運転手の真後ろの1人席に座った。

 

席に着くとすぐにバスは発車した。そこで僕は、自分の席からは前の景色くらいしか見えず、他の人の様子が全く分からないことに気づいた。最初の頃はまだ人が少なかったこともあり気にしないようにできたものの、先に進み人が増えるにつれて不安はどんどん増していった。

 

近所に住んでいる大人や大学生、学校帰りの高校生や仕事中のサラリーマン。後ろを見て確認することは緊張してなかなかできなかったけれど、確実に自分の知らない人がどんどん乗ってきている。まさか自分に危害を加えてくるような人はいないはずだけれど、それでも不安は拭いきれない。そんな思いを抱えたまま、僕はバスに乗り続けた。もしかしたら、緊張で少し丸くなっていたかもしれない。しかし、バスは何事もなく進んで行く。

 

しだいに人の数は減っていき、僕が降りる頃には数名ほどになっていた。目的地が近づくにつれて、僕の不安や緊張は少しずつ薄れていっていたものの、バスから降りる時は一目散に逃げるようにして降りた。そこから塾まではすぐだったので、駆け込むようにして塾の中に入っていった。

 

この日から、僕は1人でバスに乗って塾に行くようになった。しばらくは慣れなかったけれど、数ヶ月もすれば1人でバスに乗ることは当たり前のことになり、何も気にならなくなっていた。

 

 

当時のことを今振り返ってみると、悪い大人なんてそうそういないし、バスを怖がる必要なんて全然ないんだけど、それでもやっぱり小学生からしたら怖いものなのかな、と思った。小学生の時の自分からしたら大学生はもう大人同然だし、高校生、もっと言えば中学生なんかでもかなり大きく見えた。自分より年下の人がほとんどいない世界。そんな世界で恐れをなさない方がおかしいような気がする。

 

それでも、そんな世界に僕はものの数ヶ月で馴染んだ。いや、馴染んでしまったと言うべきかもしれない。1人でバスに乗ることが当たり前になり、悪く言うと慣れてしまった。慣れは怖い、という言葉もよく聞くし、本当にこれで良かったのだろうか。

 

僕の考えを言うと、この慣れは自分自身の成長と捉えることもできると思う。人は、初めてのことに挑戦し成功または失敗する、この繰り返しによって成長するんじゃないだろうか。小学4年生の時の僕は、1人でバスに乗ることに挑戦して、結果1人で乗れるようになった。これは僕自身にとっての大きな成長だといえると思う。

 

今回の話以外でも、初めて料理を作ってみたり、一人暮らしをしてみたり、海外に行ってみたり…と、色々な初めてのことに挑戦して、それで人は成長していくと思う。規模の大きい小さいは関係なく、その一つ一つの積み重ねが大切なんだと思う。

 

 

最後の方は少し大層な話になってしまったかもしれないけれど、これからも初めてのことに挑戦する気持ちは忘れないようにして、少しずつでも成長していければいいな、と改めて思いました。