最高の漫才師

僕は漫才が好きだ。

 

センターマイクを中心にボケとツッコミの2人が並び、その2人の絶妙な掛け合いによって見る人を笑わせる。そんな漫才師の中でも、僕にはとりわけ好きなコンビがいる。

 

 

そのコンビは、地元ではかなり人気だった。テレビにもたびたび出ており、賞レースで結果を出すことも多かった。有名人とまではいかないまでも、星の数ほどいる漫才師の中では、それなりに成功を収めている方だった。

 

しかし、彼らは上を見ていた。年末に放送される、誰でも知っている漫才コンテスト。その決勝の舞台に進み、優勝することを目指していた。その漫才コンテストに、彼らは毎年出場していたが、最高でも準決勝まで。世間の注目を集める輝かしい舞台、決勝に進むことは出来ないでいた。

 

そこで、彼らは勝負に出ることにした。今までのツッコミが目立つスタイルから、ボケの方にスポットライトが当たるスタイルに変更したのだ。これは、ある意味賭けに近いものだった。大成功とは言えずとも、ある程度は上手くいっていた今のスタイルから変更するということの重さ。これは、揉めに揉めた末の決断だった。

 

結果として、これは大成功だった。彼らは、初めて決勝に進出しただけでなく、優勝まで果たしたのだ。辛口の審査員からも大絶賛され、彼らはトロフィーを受け取り、泣き崩れた。テレビで見ていた僕も、初めて見る彼らの漫才に大笑いし、もらい泣きした。

 

しかし、彼らは優勝したにも関わらず、あまり売れずにいた。それには、準優勝したコンビのインパクトの大きさが理由としてあった。彼らは、コンテストで優勝するために最高の漫才を披露したが、その後生き残っていくために必要なものを持ち合わせていなかった。

 

そこで、彼らは以前のツッコミが目立つスタイルに戻した。もっと言えば、ツッコミ担当がコンビではなく1人で目立ち始めた。時には人に嫌われるようなことも平気でやってのけたが、これにより彼は人気者になった。相方の存在感が薄いと言われることも多々あったが、もともと漫才の実力が評価されていたのもあり、名実ともに有名漫才師となった。

 

しかし、これでは終わらなかった。相方を差し置き、1人目立っていたツッコミ担当の彼が事故を起こした。命に関わるような大事ではなかったものの、彼はしばらく活動を自粛せざるを得なくなった。世間からは、彼のキャラも相まって、やっぱりか、自業自得だ、などと誹謗する声が多数上がった。

 

コンビの今後に関わる大問題。残されたボケ担当は、コンテストでこそ目立っていたものの、それ以降は大した活躍もなく、1人でいったい何ができるのかと世間の見る目は厳しかった。一部では、解散も噂されていたくらいだった。

 

それでも、このコンビは終わらなかった。今まで存在感が薄かったボケ担当が、この危機を1人で乗り越えたのだ。1人で何ができるのかと言われていたが、むしろ1人の方が良いのではないか、と言われるまでにもなった。その後、彼のこうした活躍もあって、このコンビは活動を再開した。今では不祥事を忘れさせるくらいの活躍を見せている。

 

 

僕は、このコンビのことを全く知らない。テレビで見るたびに大笑いさせてくれるこのコンビのことを、せいぜいネットで調べられる程度のことしか知らない。

 

しかし、それでも1つ確かなことがある。それは、彼らが最高のコンビであるということ。成功するために、1人は自分のスタイルを捨て、1人は自分の不得意なスタイルに取り組んだ。さらなる活躍のため、1人は嫌われ役を買い、1人はその相方を裏で支えた。いざという時は、コンビのため、相方のために、その不在を感じさせない活躍を見せ、居場所を作った。

 

そんな彼らが、僕にとっては最高の、理想の漫才師(コンビ)だ。